尾道、坂の町
ロケがやっと終わった。少し余裕が出来たので、昨夜はこどもと映画「さびしんぼう」を見た。大林宣彦監督、尾道三部作の一つで、私のもっとも好きな作品でこれまでに3回見ている。恋をする人はみなさびしんぼうになるという青春物語。
山中恒の原作を読んでいないから憶測だが、舞台を尾道にし主人公を大きなお寺の大黒(住職の妻)に設定したのはきっと大林監督だろう。その改変がすべて良いほうに現われている。
写真を趣味とする高校生のヒロキは、他校の少女(橘百合子)を陰から撮影しながら密かに「さびしんぼう」と呼んで憧れていた。ピアノを弾く百合子の横顔がどこか淋しげに思えたのだ。片思いである。そんなある日、母に頼まれ、悪友のマコト、カズオと共に寺の土蔵を掃除した時、古い写真の束をひっくり返す。そのとき何かが起きたらしい。不思議なことが次々と始まる。
ある日、ヒロキは偶然にもあの少女と知り合うことになる。「さびしんぼう」と呼んでいる橘百合子がヒロキの寺の前で自転車をパンクさせて難儀していたのだ。ヒロキは思いきって声をかけた。そして彼女の関心を得ようと、わざわざパンクした自転車をヒロキは百合子の住む対岸の島まで届けることになる。フェリーに乗って坂道を登って彼女の家近くまで送ってゆくのだ。彼女は家まで来ることを拒否するが、ヒロキにはこの「向かい島」まで来れたことだけで天にも昇る心地となった。
そんなヒロキの前に突然、ピエロのような白塗りメイクでオーバーオール姿の奇妙な少女が現れた。突然現れて、何処へともなく消える彼女が名乗る名前は、なんと「さびしんぼう」! この「さびしんぼう」がヒロキの恋を見守りつつ、ヒロキの口うるさい母の肩をなぜかもつフシギな存在となる。
海峡を臨む坂の町尾道を舞台に、懐かしくもせつない初恋の物語が始まる。
ここまで書けば気づいただろう。これはSFの隣りのジャンルであるファンタジーだ。そのファンタジーに相応しい舞台が尾道だ。坂道の町並みが実に美しい。中でも、橘百合子が住む対岸の「向かい島」が幻想的だ。彼女の誕生日プレゼントを持ってヒロキが島を訪れる夏の夜のシーンは映画史上に残る名場面だと、私は思っている。
実際の向かい島は造船所の町だ。ここへ通う工員の人たちが集う町の食堂を舞台にテレビドキュメンタリーを私は制作したことがある。タイトルも「尾道さびしんぼう食堂」。1992年か3年の頃、私が広島の局にいたときだ。さらに、後に、大磯の坂の町に住むのもこの映画の影響だろう。それぐらい、この「さびしんぼう」は私にとって大切な映画だった。
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