ロバート・A・ハインライン
大伴昌司を調べるのでSFに近づいたが、元来SFは苦手だ。あまり読んだことがなかった。アーサー・クラークやアシモフの名前は知ってはいるものの、内容はほとんど知らなかった。どうも、あのタイムマシンとか光線銃といった装置、道具に抵抗感があるのだ。だから映画でも未来映画と称される特撮SF映画は必要でないかぎり見ていない。
だがこの半年、接近するにつれ、食わず嫌いの部分を修正されるような作品にぽつぽつ出会っている。ハインラインの『夏の扉』もそうだった。発明家のダニイは頭はいいのかもしれないが世故には長けておらず、近しい人たちに裏切られる。その彼が陰謀の術策から逃れるため冷凍睡眠(コールドスリープ)とタイムマシンを利用するのだ。この利用がいかにもありそうな状況をハインラインは巧みに作り上げている。この未来社会のリアリティにまいった。
裏切りの張本人は恋人のベルと友人のマイルズだが、この二人への仕返しがえらくあっさりしている。ミステリーだったらこの怨みを梃子に復讐に突き進むのだが、そうはならないところにハインラインの人柄があるのか、SFのお人よしがあるのか。とにかく面白かった。半日で読めた。
この小説を読んで、大伴の有名な「冷凍睡眠」のイラスト原案の意味が分かった。その画に大伴はこんな注釈をつけているのだ。
「冷凍睡眠してよみがって、昔ぼくをふった可愛い子ちゃんの娘を誘惑して、復讐してやる」
この注釈を読んだとき、変なことを大伴は考えるなあと思ったが、ハインラインを一読して納得した。こんな人間的なSFならもっと読みたいと思った。
この小説のもう一人の主人公は飼い猫のピートだ。ダニイの家にたくさん扉があるが、冬になるとそのどれかが夏への扉だと思ってピートが探して歩くというのが、タイトルのしかけだ。この本の献辞に「世のなべての猫好きにこの本を捧げる」とある。ハインラインも相当な猫好きだということが分かる。そうではない私もこの小説は楽しめた。
これは早川書房から1979年に出版され2005年で57刷りも重ねた大ベストセラーだ。訳者は「SFマガジン」の編集長だった福島正実だ。さすが目利きである。
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