蓋棺シネマ
夕方、衛星映画劇場のワタナベ支配人が忙しくしていた。どうしたのと聞くと、熊井啓監督が亡くなったのですよという返事。そうか、「忍ぶ川」の名匠も逝ったか。
映画関係者の訃報が入ると、映画班は突然忙しくなる。その人の代表作をブラウン管に載せることができるかすぐに検討に入るからだ。対内的には編成局との折衝で映画を流す「枠」があるかどうかの交渉となり、対外的には著作権の権利者との折衝にあたらねばならない。高齢の関係者のリストを作って待っているわけにはいかないから、その都度ドタバタするのだ。まあ、リズ・テーラーぐらいになると用意しておくこともあるかもしれないが。
ワタナベ支配人によれば、この1年ほど追悼番組が多いとのこと。思いつくままに挙げる。
植木等、田村正広、丹波哲郎、アンソニー・クィン、マーロン・ブランド、キャサリーン・ヘップパーン、などなど。
この追悼番組の難しいのは、その映画人を偲ぶにふさわしい作品を確保できるかということだ。有名な映画人だから、これまでもその人物の代表作を衛星映画劇場でオンエアーしているはず。だから字幕の処理も済んでいるだろうが、放映する権利を映画会社から譲っていただけるかどうかだ。なにより、金額交渉だ。
さすがに、ワタナベ支配人は故人の映画の歴史はほとんど把握しているから、追悼番組の構成を立てるのは早い。だいたい、司会はワタナベ支配人、ゲストは映画評論家となる。
今回の熊井啓監督であれば、どんな映画がふさわしいと思うかと支配人から聞かれ、私は「サンダカン八番娼館・望郷」か「忍ぶ川」と答えた。支配人の頭のなかには「千利休・本覚坊遺文」や「深い川」にも興味があるようだ。
死者の業績を記したものを蓋棺録という。棺の蓋を覆って初めて、その人の人生が決まるという。追悼映画はさしずめ蓋棺シネマとでも言おうか。
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