コミュニケーション不全
目黒駅前のドトールでコーヒーを飲んでいて、隣の三人の女性たちの会話につい聞き入ってしまった。
50年輩の女性は近所の男性の話題を始めた。どうやら、碑文谷の御屋敷町に住んでいるようだ。彼女は20年前にその町に引っ越してきたとき、隣家とトラブルがあったと、他の30代の二人の女性に訴える。大きな門構えの家に引きこもっている男性がいて、この人物が顔を合わせるたびに「ここから即刻出て行け!」と怒鳴るのだ。ほとほと嫌気がさした。その男は当時30代後半で定職にもつかず家でぶらぶらしていた。慶応を出て作家志望という話だったが、ぱっとしない男だったわと、50の主婦は語る。あの当時偏屈な奴と思ったけど、今考えると引きこもりだったのねと、振り返る。「で、どうなったの?」と若い女性が尋ねると、「その後大きなマンションが建って、その男はもう出てこなくなった」という。「よかったわね」と相槌をうつ30代。
本当によかったのか。その男はさらに追い詰められた気持ちになっているのじゃないだろうか、と私は詮索したくなる。
すると、30代女性が突然告白を始めた。「私の弟が家を出て行かないの」彼女は結婚して子供も一人いるのだが、実家に両親といっしょに住んでいる弟についてこぼしはじめた。
「弟は37、私と年子なの。この20年家からほとんど出ず両親も困っているのよ。」
50女性が聞く。「仕事はしていないの」「大学を中退してからずっと家にいるの」「ご飯のときだけ出てくるのだけど」「一日中、どうやらテレビを見ているみたい」
もう一人の30女性が聞く。「友達とかいないの。どこか、旅に行くとかさ」
「ぜーん、ぜん。高校以来友達からの電話って一本もないのよ。年賀状だって一枚もない。」
他の女性たちは、もっと楽しさを教えてあげたらとアドバイスする。「カラオケなんかへ連れ出したら」。それを聞いて30女性は口をとがらす。「行っても歌う歌がないと言って先に帰るのよ。歌えないということで自分のプライドがすごく傷つけられた言い方をするの」
そして、こう言い放つ。「私の弟じゃなかったら、あんな男とは口をききたくないわよ。」
そのあと、弟の諸行について“姉”はぐずぐず暴き立てた。彼女の気持ちは分からないでもないが、そこまで貶めることはあるまいと、次第に私はその弟のカタをもちたくなった。
結局、三人の女性たちは最近の男はコミュニケーションの不全した者が多いということを結論づけた。最後まで、聞いていた私としては納得できなかった。そんな簡単に括るなよと言いたいが、かといってどうしていいか見当もつかない。
唐突だが、こういう人生を送っている人物が、「耳をすませば」のような物語を見たら泣きたくなるだろうなあと、思った。
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今日のツヴァイク道、藤の花が盛りだった。