ワザを公開する
川田順造という人類学者の仕事は実に面白い。今、雑誌『望星』で「モノとワザの原点を探る」と題して技術の歴史をシリーズで語っている。
その一つに面白い記事をみつけた。アフリカとフランスと日本のワザの伝え方の比較だ。
アフリカでは内婚関係(身内)でワザを伝えてゆく。娘は母から土器を作る技術を教えてもらい、それを娘はまた自分の子に伝えてゆく。これは世代から世代へ伝えるには有効だが、地域を越えて広く伝わらない。小さな社会の中だけで成立している。
ヨーロッパ、特にフランスでは技術は各地を遍歴して覚えてゆく仕組みとなっている。遍歴職人制である。見習いの徒弟は、異なる地方の親方を回って技術を磨くのだ。そして何年かの修行の後に卒業制作をする。それが「マスター(親方)ピース(作品)」だ。
では日本はどうか。「親方の技を盗む方式」だ。親方、兄弟子、弟弟子の関係がものをいう。血縁でないだけに関係は厳しい。一箇所に住み込んでの「ただ働き」だ。川田はこう説明する。
《師匠が弟子にわかりやすく教えるのではなく、弟子はそれこそ師匠の身辺の世話や、家の雑巾がけ、炊事、風呂焚きをしながら、師匠から芸やワザを「盗んで」修業すべきだとされる。》とくに、際立つのが精神面――技術習得の上で非合理な根性と辛抱が強調される。
私の仕事、番組制作の周辺でも、「親方の技を盗む方式」に類したことが今もある。ディレクターを罵倒して番組を作り上げるプロデューサーという存在は、昔ながらの親方だ。ジャーナリストとして知性と義をかかげて仕事をするはずにもかかわらず、驚くほど罵倒するほうもされるディレクターのほうも、自分たちの所業を疑わない。そして、ワザを教えるプロデューサーのほうはもってまわったやり方で、自分のワザを秘儀めいて伝達するのだ。もしくは俺のワザを盗めと“威張る”のだ。
私はこのやり方が嫌いだ。番組制作に秘儀などない。一定のセオリーさえ分かれば誰でも番組は作ることができると信じている。だから、数年前『テレビ制作入門』(平凡社)という本を著した。その本だけでは手法を紹介したにすぎないと考え、一般人でも市販のカメラとパソコンを使って番組制作を実践することを著した。それが近作『ドキュメンタリーを作る』である。
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