ラストコメント
今、ナレーション録りを終えて、本郷からもどった。
本日使用したスタジオは、岩波映画社にいた人が所有しているそうだ。道理で、水道橋あたりにあったわけだ。
ミキサーは、黒木監督の映画に関係してきた人物。彼はこの部屋には慣れているが、私や語りの加賀美さんは初めてでとまどうことも少なからずあったが、予定の時間を20分延長するだけで作業を終えた。
これも、加賀美さんの詠みが深く安定しているおかげだ。この語りを録るとき、ナレーターは原盤の音を聴きながら発語する。
人によっては、自分の声もイヤーフォーンに入れてというのだが、加賀美さんはできるだけ自分の声は絞ってくださいと言う。
どうやら、加賀美さんは番組の固有の音に耳を澄ませながら、自分の声を出していくタイプらしい。
ディレクターの文体が整っていない悪文でも、加賀美さんの声にかかると、名文に聞こえる。
例えば、
Q 地元の旧制小林中学に入学した黒木和雄。
戦局が悪化した昭和20年4月、川崎航空機工業都城工場に勤労動員されました。そこで黒木和雄はその後の運命を変える5月8日をむかえます。
沖縄から飛来した敵機グラマンの突撃の爆撃により、級友10名が即死したのです。
この数字をいくつか含んだややこしい文章を、加賀美さんは分かりやすく詠み伝えてくれるのだ。
さて、ナレーション原稿は昨夜のうちにかなり作ってある。だが、最後のナレーションのコメントは出来ていなかった。
ラストコメントというのは本当に難しいのだ。番組全体を見通して、結びの言葉でありメッセージや願いをこめておかなくてはならないのだ。この言葉はすぐには出てこない。録音作業を続けるなかで、次第にラストコメントのイメージがおぼろに出てくる。
そして、最後に至り、最後のあがきとなる。この番組がうまくいったかどうかは、12日の番組を見て欲しい。
ここで番宣。
放送日:8月12日、教育テレビ 夜10時から11時半まで
ETV特集「戦争へのまなざし~映画作家・黒木和雄の世界~」語り:加賀美幸子、朗読:石橋蓮司
この録音を終わって出てくると、後楽園から歓声が聞こえてきた。夏休みで子供たちがはしゃいでいる。自慢じゃないが、現役時代、子供を連れてディズニーランドへ行ったことは一度もない。他の遊園地へも行ったことはほとんどない。夏はいつも原爆、戦争の特別番組の制作に追われていた。家族は、私が不在であることを当然と思っていた。
しかし、今、電車などで行楽地へ向かう子供たちを見かけると、あのときいっしょに遊んでやれば良かったかなあと思うこともある。
夏盛り 影絵のごとき 遊園地
なんだ、まんまの句じゃないか。
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