雨中湘南
雨にけむる烏帽子岩を見たことがあるだろうか――。
いつも賑わう西湘バイパスも、雨だとめっきり車が減り、広い海原だけが目に付く。茅ヶ崎の海まで行くと、雨の中に烏帽子岩が寂しげに立っているのが見える。
40年以上前、中学校の修学旅行で田舎から東京へ来たことがある。初めてではなかったが久しぶりの東京だったし、2泊3日という宿泊の旅だったので、ずいぶん興奮していた。
上野の修学旅行用の旅館に泊まって、皇居、羽田、浅草、銀座などを観光バスに乗って見て回った。時代はちょうど「3丁目の夕日」の頃だ。銀座に柳の並木があったと記憶する。羽田ではお土産に飛行機の文鎮を買った。たしかプロペラ機だった。
最終日はあいにく雨だった。東京からバスで鎌倉へ出てお寺や大仏を見た後、東海道を南下して小田原か熱海かいずれかから汽車に乗り換えて、帰路についたと思う。
鎌倉から湘南の海を見ながら走ったバスの旅が忘れられない。茅ヶ崎を通過する頃いちだんと雨が激しくなっていた。それでも、バスガイドさんは「海の中に見えておりますのが、烏帽子岩でございます。」と案内してくれた。窓ガラスの水滴をぬぐって見晴るかすと、沖合いに白い波を立てている小岩があった。湘南の海は故郷の日本海とは青さが違った。雨で沈んだ風景でも敦賀の海のような寂しさや哀しさはなかった。
まだ、当時は加山雄三もサザンもなかったから、湘南サウンドが耳に流れてくることはないのだが、それらしい明るい歌声が聞こえたような気がした。街道沿いにはしゃれた家がいくつも並んでいた。いいなあ、こういう所で暮らしてみたいものだと、詰襟の中学生はそのとき思った。
後年、大磯に家を建てたいと思ったのはあの烏帽子岩のことが頭のどこかにこびり付いていたのだろう。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング