明日の記憶
昨夕、家へ電話したら家人が「さっき、TSUTAYAから返却予定日を1週間過ぎているけどまだ返ってないと言ってきたよ」と、お冠だ。おかしいなあ、レンタルしてまだ1週間だ。延長になっても1日程度なのに。なぜ、わざわざ電話してくるのだろう。
「呆けたのじゃないの」という家人の一言で、切れた。
雪となった。深更におよんで霏々と降る。11時過ぎベッドに潜り込んで『明日の記憶』を読む。今話題の荻原浩の若年性アルツハイマー症を描いた小説だ。
これは恐ろしい本だった。49歳の広告代理店の部長を勤めるサエキの半年間にわたる日記を中心に構成されている。だから、患者の追い詰められてゆく心理がみえるのだ。他人事ではない。
最近物忘れがひどい、名前がなかなか出てこない、とサエキが気にするところから物語は始まる。古い型のパソコンをサエキは使っていてすぐフリーズする。新しい機種に換えたらとまわりから言われても使いこなす自信がない。アポを忘れてしまう、家の鍵をかけたかどうか覚えが無い、書類を置いた場所を失念する・・・サエキの不安は、すべて私にもあてはまる。
ただ一つ違うのは、混乱したときサエキの頭の中でぶつっと鈍い切れる音がするということ。
そしてサエキは専門医を訪れる。そこで診察を受ける。
「まず、お年を聞かせてください」
「ここはどこですか」
「次の3つの言葉を覚えてください。いいですか、あさがお、飛行機、いぬ」
「今日は何曜日ですか」
「さっきの3つの言葉を思い出して言ってみてください。」
・ ・・むむ、私もできない、すぐに言えない。
サエキは若年性アルツハイマー症の初期症状だと診断される。症状はだんだん進行してゆく。職場で失敗が続く。駅を降りてここはどこの町か見当がつかない。失行という異常行動が増えてゆく。随伴症状があらわれる。鬱病、理由もなく怒り出したり人を疑い深くなったりしてゆき最後は、同居するパートナーすら忘れてしまう。毎朝起きるたび、「あなたはどなたですか?」
読書は夜も更けたし何度もやめようと思いながらとうとう最後まで読んだ。午前2時をはるかに回っていた。窓の外の雪は依然降り続く。私は呆然と見るだけだった。
TSUTAYAのトラブルの顛末だが、真相はこうだ。借り出し日を調べると1月30日(月)になっている。昨日でちょうど1週間になる。DVDのタイトルはヒッチコックの「舞台恐怖症」。最近リリースされた作品なので、準新作扱いとなっていた。だから返却予定日は2月1日。私はてっきり旧作だと思い込んでいたわけで、結果として1週間延長していたことになる。最初に勘違いしたのであって、返却することを忘れていたわけではない。と自分を正当化したものの、『明日の記憶』を読んだ後は、疑念と不安は消えずなかなか眠れなかった。
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