北陸線、杉津、柳ヶ瀬
書店で『幻の時刻表』という新書を手に取った。かつて存在して、その後消えた駅名があって、その中に北陸線、杉津、柳ヶ瀬とあった。懐かしかった。両方とも私の故郷敦賀の脇の町だ。
柳ヶ瀬は豪雪地帯として古来より知られていたが近年雪不足が続いた。が、今年はとてつもない雪が降っていると先日電話に出た母が伝えていた。鏡花の『高野聖』で雪に閉じ込められた敦賀の宿で,旅人が来るのも柳ヶ瀬からだったと記憶するが、とにかく雪が多いので有名な地だ。電化される前の旧北陸線のスイッチバックの基地だった。
杉津はすいづと読む。敦賀から米原よりに柳ヶ瀬があり福井よりに杉津があった。敦賀湾の東浦に面する小さな村だ。集落は海沿いにあるが駅はそこから100㍍ほど上がった崖の中腹にあった。汽車で通ると海が一望できる絶景だ。ただ雪囲いがあって、海が見えたり見えなかったりした。自動車道も崖を巻くようにして通っていて事故がよくあった。まだ舗装もされていないその道を車で来たと、南部忠平さんが小学校で開かれた講演会で語っていた。こんな美しい風景は稀だと誉めてくれたことが嬉しかった。
4年生のときの担任が杉津から通勤していた。ある日、急病で休んだ。どうしたのかと思っていたら、杉津駅で朝の通勤電車に引っ掛けられたという話だった。先生は1学期分休んだ。
この懐かしい駅の名はすべて消えた。北陸線が電化され北陸トンネルが開通したからだ。杉津はトンネルの地表にあたる難所だった。汽車は高速化され便利にはなったが、味気ない汽車の旅になった。
幻の時刻表には東京からウラジオストック行きの列車がある。東京から敦賀まで来て連絡船に乗り換えてナホトカまで行き、ウラジオやハバロフスク、モスコー、ベルリン、パリと繋がっていくのだ。
松岡洋祐が国際連盟を脱退したときも、この路線を使いシベリア鉄道を通って向かった。そのための特別列車が敦賀に来たということを聞き、少年の私は誇らしかった。
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