棚の上の薬箱
子供の頃、年に一回富山の薬売りがやって来た。その人は大きな風呂敷包みを背負っていた。時候のあいさつを如才なくしながら玄関の式台に腰を掛けて包みを解いた。包みの中から入れ子状になった竹の行李が現れる。母は奥に引っ込んで、高い棚に置いてある薬箱をいそいそと持ってくる。
と、ここまで書いて、たまたま手にとった11月に出版されたばかりの『ショージ君の養生訓』に富山の薬売りの話がのっていた。ウーム、何と言う偶然か。それによると、竹の行李の表現は、《何段もの四角い竹かごが入っていた。この竹かごは上方になるにしたがって小さくなっていくピラミッド方式をとっていた。》とある。
薬売りは早速我が家の薬箱を点検する。使って減った薬は補填し、新発売の品は効能書きを添えて箱に再び収める。そのうえで、使用点数をミニ算盤で計算する。竹の行李の一番上部は算盤や帳簿など事務用品が整頓されて入っている。ここがいつも羨ましく思った。
私もミニ算盤で計算して、請求書を書きたかったのだ。
最後に、紙風船やカレンダー、食合わせ表などをサービスとして置いていく。
手際がいい。終わると行李を重ねて大風呂敷で包み、背中に負う。「毎度ありがとうございました。また来年も参ります」と言って去って行く。この間20分足らずだ。私は薬売りになりたかった。
この包みの中の整理整頓にずっと憧れた。竹の行李が何段も重ねられている。箱ごとに傷薬、呑み薬、熱さまし、と分類されている。とくに頓服の紙袋にはまた小さな紙包みの頓服が入っている。大も小も表紙は同じデザインで、たしか赤いだるまが4つ並んでいた。
ショージ君の記憶では布袋さまが腹を出して並んでいたとある。そうかなあ、確か達磨が熱を退治してくれるのじゃなかったかなあ。
と、ここまで話のマクラ。パソコンをやっていると、ファイルを利用する。このファイルがいつも竹の行李や紙袋に思えてならないのだ。ファイルを開くと中から同系統のデータが出てくる。この入れ子状が、薬売りの竹の行李に見えてくるのだ。
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