死者と出会う、アナザーワールド
先年、臨床心理学の河合隼雄氏とイギリス・コーンウォール地方に行った。ケルト文明をテーマとする番組制作である。ケルト人とはイギリス、アイルランド人の祖先の一つで、かつてヨーロッパに広く住んでいた。その後ノルマンやゲルマンが進出し、キリスト教が広まるにつれて歴史の舞台から消えていった。古代ケルト人は祖先を敬い、輪廻転生を信じ、太陽など自然を崇拝する民だったといわれる。
今、イギリスでドルイドと呼ばれる自然崇拝者が増えている。ケルトの自然崇拝の考え方を現代に復活させようという人たちで、ブリストル大のハットン教授によれば、宗教ではなく一つの思想を共有する人たちだという。
近代技術が発達したものの、人間は大地との結びつきが減り本当に心豊かになっていると言えるだろうか。これを解決するために古代の知恵を発見しようとしている人たちがドルイドではないかと河合氏は考え、それを知りたいとイギリスやアイルランドに出向いた。
そして、人間は自然に属するもので、自然に生かされている存在と考えるドルイドに河合隼雄氏は深く共感していた。
ケルト人はこの世ではない、アナザーワールドの存在を認めていた。それはこの地方に伝わる昔話に数多く痕跡をとどめている。
また、実際にアナザーワールドの入り口と信じられている所もあちこちにあった。川の段差があって滝のようになっている場所とか、森の奥の泉のほとりとか、聖なる区域はそれらしい厳かさがあった。そこには、それと分る文様もあった。
その文様は渦巻きだ。この渦巻きのスペースからあの世へ入ることができるという。人々特にドルイドの人たちは深く信じていた。
でも、これは陳腐でもなければカルトでもないだろう。私たち日本人もよく心を澄ましてその存在に眼を向けてきた経験があるではないか。特に8月の日本では、死者との出会いは風物詩にまでなっている。お盆である。そればかりか、敗戦後の日本では戦禍を受けた広島、長崎の受難の日、終戦を告げた15日は死者と交わる重要な日となっているではないか。
今夜、広島の太田川のほとりにはアナザーワールドが開く。何千何万という灯篭が流される、あの場所こそ、死者と交流する聖域――ケルトで言えば、渦巻模様の印がある場所ではないだろうか。
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