山茶花よ
昨夜、広島の知人に連絡をとったところ、予想もしなかったつぶれた声が返ってきた。日ごろのハスキーなアルトとは到底異なるだみ声にたまげた。どうしたのかと訊ねると、以前患った舌癌に加えて食道癌も発生し、その抗がん剤の副作用で声が出なくなったと「しどろもどろ」で答えた。胸を衝かれた。
その人は40代。30代の若さで発症し十年以上癌と闘ってきた。これでもかと次々にがん細胞が発生してくる。加えて、今回は痛みが烈しいと、母上から聞かされた。放射線治療の被曝線量が規定値をとおに越えてしまい、その少ない照射ですら、当人の体に大きな負担と痛みを与えているらしい。絶望のなかにあって、それでも必死に病と戦うその人に頭が下がる。なんとかご加護をと祈らずにいられない。
その情報をケータイで聞き取ったあと、家に向かった。
家の前に店を閉めた洋服屋(テーラー)があって、その空っぽのウィンドウの前に大きな山茶花が立っている。今盛りの白い花をつけていた。
夜目にもその可憐な花びらは美しい。寄っていって思わずその花びらをつまんだ。
すると花ごとぼそりと抜けた。もろい。
さらに、花弁に触れると、ばらばらとほどけて落ちた。
遠めで見たときは、寒風のなかでけなげに白い花を咲かせて頑張っているように見えたが、実はもう死に態だったのだ。いや死んでいたかもしれない。いたたまれないものを感じた。
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