「桐島、部活をやめるってよ」は二重丸
40年前、貧しかったが中国の人民は素敵な笑顔をもっていた。トラクターはなくとも人力で田を起こし、最新の機械ではないぼろい旋盤で金型を削っていたが、はつらつとしていた。少なくとも日本に流れてくる中国の人民像は希望に満ちていた。
アグネス・スメドレーが描く『偉大なる道』の朱徳将軍のような深い人格をもった“英雄”が国をしっかり指導しているのだと尊敬の念をいだいた。
20年前、天安門事件が発生した。その頃からあの国の流れが大きく変化した。中国は通商に力を入れるようになり、日本への出稼ぎも増えた。日本で蓄財した富で帰国して成功するという沿岸部の中国人のうわさが流れてきたのは世紀末の頃であったろうか。「万元戸」なる言葉がもてはやされた。
たしかに1990年初頭、21世紀の半ばには中国は大発展を遂げていると予想する経済ジャーナリズムがあったが、当時は何と大げさな表現とそういう記事を軽侮していた。
ところが東アジアで今起きていることは、20年前の予想を裏切らないほど発展拡大した中国の存在だ。拡大のあまり、領土問題、海洋資源問題、防衛問題などにおいて、帝国主義的態度があからさまになっている。国力が増すにつれて、報道担当官の発言も態度も傲慢にさえ思えるほど尊大になってきた。かつての英雄的微笑をもらす中国人民の姿は皆無となった。
ということで、昨今の尖閣をめぐる動きで、気分がなんとなく愛国的になっている自分に気が付いてイライラすることが多い。なんとか吹っ切りたいと願っていたら、職場の同僚で映画・芝居好きのWさんと話をしていて、「桐島、部活をやめるってよ」が佳作だから見たほうがいいと薦められた。封切りは2年前だからDVDででも見ようかなと考えていたら、目黒シネマという2番館で上映していていることが分かり、昨日の土曜日の午前の回に足を運んだ。
併映の「ジョゼと虎と魚たち」が11時40分開始。5分前に入ると、客席は8割埋まっていた。やはり「桐島」の人気が高いのだと痛感。
午後3時過ぎ、映画が終わり小屋を出た。ウキウキした。
久しぶりにうまい演出の映画を見た気がした。吉田大八という監督はすげえ。シナリオにも共同執筆で手を出しているが、なにより若手の役者たちの「ウゴカシ方」が堂にいっている。KYなどを気にする高校生たちの気分やこの世代特有の移り気な感情をよく掴んで、演出をかけていることが見てとれた。
しかし、なにより小気味がいいのは、この物語の構成だ。金曜日から始まり火曜日で終わる各人の視点が、最後の場面ですべてつながっていくという仕掛け。まさに映画というケレンだ。この監督の才人ぶりに感心した。
最近の洋画で感心したのはポランスキーの「ゴーストライター」ぐらいで、ハリウッドの作品など見るものはひとつもないなか、インド映画と並んで日本映画は今勢いがある。
それとテレビドラマは「あまちゃん」。民放のドラマは軒並み凡俗でつまらないなかで光っている。脚本の宮藤官九郎もいいが、それに応えて”悪乗り“している演出がいい。誰が軸になって演出を引っ張っているのか知らないが、たしかにきちんとした演出意図があることは見ていれば分かる。この演出陣のなかからも「桐島」のような才能が出てくるような気がする。そういえば、「あまちゃん」で活躍する橋本愛はこの「桐島」で注目されたのだと気がついた。
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