ただいま
10時に退院して家にもどった。1泊2日の検査入院である。検査は前立腺のなかの癌細胞サーチ。指数4以上は危険水域の前立腺がん。
現在7・22ある。微妙だが調べるだけ調べておいたほうがいいという医師のアドバイスに従って、泊まり込みで検査を受けたのだ。
昨日の午後10時半に入退院センターに出頭。手続きを終えて、三階の泌尿器系の病棟へ向かう。ラッキーなことに個室が空いているので、差額料金なしで利用できると専任看護師小川さんから告げられる。すぐに検査着に着替える。
左手に点滴を打たれる。このあたりからだんだん病院モードが強くなる。施術されるまで4時間以上ある。ベッドで安静にしていろと指示。鎮静剤を打てばほどほどに眠くなると言われ、すぐ飛びついた。これが面白かった。
半覚醒しているから外部の音は耳に入ってくる。一方、想像したいことを念ずるとその窓も開くのだ。
少年時代の友だちや校舎を思ったら、懐かしい顔がいろいろ浮かんだ。これに味をしめて、亡き父と母のことを念じた。
久しぶりに親父の頑固な顔が現れ、心配そうな母の顔がそばにつきそっていた。あの世へ行っても、お袋の世話にならないとやっていけないのだな、親父は。でてきた二人は何もいわない。ただにこにこ笑っているだけ。
芭蕉の高野山を訪ねたときに詠んだ句を思い出した。
父母のしきりに恋し雉の声
3時半。外来の診察も終わった泌尿器科の処置室のベッドに横たわる。腰に局部麻酔を打たれた。主治医の澤田先生が執刀してくれる。予想外だったのが、尿道にカテーテルを挿入されたことだ。うむを言わさず、澤田先生は一気に私の体をカテーテルで貫く。ズッキーン
実際に前立腺の組織をちょきんちょきんと切り取ることの詳細は割愛。
へろへろになって4時半ベッドに戻る。1時間放置される。日がだんだん昏れる。
廊下に灯がついた。チャイムが鳴って夕食の時間となる。前と後ろに管を2本つないだ私はだらだらと食膳を運んで、「いただきます」と大声でとなえる。
大橋病院は高速道路のたもとにあるから、病窓から行き交うトラック群が見える。これが、人間が働いているというメッセージを投げて来る。ぐずぐず弱音を吐くのはやめて手術と闘うぞと愚かで陳腐な患者宣言を胸に刻む。
と思って、ベッドそばのテレビを点けると、市川団十郎の訃報を告げていた。年齢を見ると私と変わらない。
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