張ること能わず
昨夜の『ETV特集』を見て、打ちのめされた。
作家の辺見庸と死刑囚大道寺将司との対話を描いた作品で、そこで刻まれた大道寺の「言葉」の重さに衝撃を受けた。
大道寺将司は、東アジア反日武装戦線の"狼"部隊のリーダーとして、お召し列車爆破未遂事件(虹作戦)及び三菱重工爆破を含む3件の「連続企業爆破事件」の犯人として、1975年に逮捕された。1987年最高裁で死刑確定。30年以上にわたって獄中にある。
私と同じ1948年に、北海道で生まれている。彼が逮捕されたとき、私は大阪で勤務をしていた。彼が死刑確定されたとき、私は成増に住み福祉番組を制作していた。
その大道寺は現在血液癌と闘いながら獄中生活を送っている。
あるときから、彼は作句をはじめた。12000におよぶ句を詠んでいる。このたび、辺見の尽力もあって、句集「棺一基」が出た。タイトルにもなっている棺一基(かんいっき)の句。
棺一基四顧茫々と霞みけり
言うまでもないが、この句は大道寺自身の死後を描いている。
彼の独房から戸外は見えない。寒温は知ることが出来ても、春到来も秋消失も知ることはない。その境遇にあって、26歳までの獄外の記憶を磨ぎすまして句を詠んでいる。
番組のなかで、命を奪ったものとして、けっして自己憐憫をしないと大道寺が決意したと紹介される。その逸話が心を去らない。
大道寺のほとばしる言葉がある。辺見は「俳句にいまや全実存を託したのだ」と評する。
「秋の日を映して暗き鴉の目」
「霙打つ国に零るる侵略史」
「ありあけの国家綻ぶ落椿」
「瘡蓋(かさぶた)を剥けばおぼろの国家かな」
癌の激痛のため、2メートルを1時間かけて這って独房のトイレに向かうという。その境涯でも、国家との対峙を捨てない。忘れない。
本番組の映像に目を奪われた。拘置所に向かって、不自由な足で向かって行く辺見の背中。暗闇に浮かぶ辺見の横顔、鼻梁の気高さ。井田カメラマンの仕事。
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