今どきの映像
この2月は寒い日が続いた。被災地には二重の苦しみだろうし、新潟、富山は雪害の地獄だろうと想像した。だがエゴイストな私は断続的に襲って来る地震におびえて、再び震度6以上の強烈なやつが来たらどうしようと心配ばかりしていた。
3・11以来、エレベーターに乗ること、映画館に行くことがすっかり苦手になった。それが2月には3度シネコンに行くばかりか同じ映画を2度見ることになった。2度見たのは「ドラゴンタトゥーの女」。久しぶりにミステリーの面白さを堪能した。もう一本は「続・3丁目の夕日」で、悪くはなかったが1本目の感動はなかった。今見たいのはイラン映画「別離」。ベルリン金熊賞を受賞したという作品と園子温監督の近作だ。私の周囲では話題になっている。
テレビ映像も立て続けに、DVDで3本見た。伊丹十三の伝記[伊丹十三『お葬式』への道]、日本オオカミの伝説を描いた「見狼記」、坂本龍一と奇跡の一本松を記録した「坂本龍一フォレストシンフォニー」。
伊丹さんは昔から関心をもっていて、いつか自分でもドキュメントを作ってみたいと資料を読んだことがある。その関心から本作品を見ると、内容的にも物足りなかった。「遠くへ行きたい」をともに作ったテレビマンユニオンが担当しているから何か新しいことがあるかと期待したが、内田樹がインタビューに出演しているだけが特筆で、ほかにはみるべきものがなかった。最も大きな伊丹の謎、大江健三郎との関係について、意識的に離れていると感じた。おそらく、このドキュメントは宮本信子の許諾のもとで出来上がっているのだろう。伊丹の少年期における野上照代の証言、松山東高時代の大江との関係、浪人中の大阪、芦屋での伊丹、大江、そしてゆかり夫人の関係、最晩年の関心である産業廃棄物と業者のことども。山口瞳との入り組んだ交友。これらの「謎」を解き明かすのは、長男の成長を待つしかない。
坂本龍一は、大江光の音楽をポリティカルコレクトネスと決めつけたときから好きでない。彼のエコロジカルな発言なども嘘くさく思えて、その音楽に惹かれることはない。樹木に電位が発生していて、それを音楽で表そうという試みについてのETV特集も期待はしていない。見終わっても深いものは残らなかった。特に文化人類学者とのやりとりは、なんだか薄っぺらいものに思えて仕方がない。反原発の思想を我々はもっと鍛えておかなくてはいけないのじゃないか。と、坂本の高慢を、私は生理的に嫌っていることをあらためて思い知る。
今回のDVD視聴でいちばん心に響いたのは「見狼記」だった。絶滅したと思われる日本オオカミの行方を追う、私と同世代の男が主人公の物語。60分サイズのETV特集であったが、味わい深い内容と映像だった。幻となったものを、気配を追いかけるという制作者の志が素敵だ。東のオオカミ伝説を紹介したあと、西の伝説に挿話が移るのだが、主人公は東にとどまって西の場面では出てこない。彼を連れていく旅費もないのだろう。少ない制作費をやりくりして、野宿までして映像を作り上げようとする小さなプロダクションの苦労を思って感動した。2011年度のETV特集の60分サイズでは、「おじいちゃんと鉄砲玉」と「見狼記」が出色だった。
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