モーニングサービス 三田完
三田完の近作「モーニングサービス」を読んだ。浅草、浅草寺裏の商店街にある喫茶店「カサブランカ」を舞台に展開する人情ドラマ。昭和色で彩られたドラマは半村良の名作「雨宿り」を髣髴とさせる。理由ありの夫婦が営む喫茶店カサブランカに、常連の客、老妓、その弟子の芸妓、性同一障害の医学生、ベトナム人中華店員などが出入りする。設定もいいし、登場人物だって悪くない。特に医学生ヒカルはなかなか面白いキャラクターだ。連作短編だから毎回主人公が変わっていくので飽きない。久しぶりに大人の人情噺に出会えたと喜んで読み始めた。昨夜のことだ。時計の針がテッペンを回ったところで中断し、今朝寝床で続きを読んだ。面白かった。お仕舞まで間断することがなかった。
だが、何か物足りない。半村のときのような凄味というか塩味が足りない。出てくる人がみんないい人ばかりで、ハッピーにエンドをむかえる話ばかりで、いささか物足りない。「3丁目の夕日」になりすぎていやしまいか。
文章に甘固さがある。半村のような省略がなく、説明口調が多いのが気になる。作者の三田には俳句の素養がたっぷりあるのだから、あの技法をもっととりこめばいいのに。
惜しいのはヒカルの物語。彼の悩み多かった前半生の描写・紹介に尺をとられて、現在の姿から発展していく恋物語(たとえ悲恋で終わろうとも)をもっと見たかった。母親との和解も故郷新潟でするのでなく、浅草まで遠出させて、愁嘆場を作ってやるぐらいの手間がほしかった。
それにしても、花柳界や浅草界隈に関する作者の知識や情報は詳しいことに感心する。医学、解剖の知識は何かの書物の受け売りかもしれないが、浅草の町場の人情にはめっぽう精通している。この人の出身は浦和とあるから、浅草の土地勘はないはずだが。どこで、この匂いを嗅いできたのだろう。作者の大学の大先輩、久保田万太郎なら浅草育ちで当たり前のことかもしれないが、この人はどうやって身につけたのだろう。
おっと今気がついたが、ミタカンもクボマンも慶応出身、おまけに公共放送の制作担当者だったとよく似た経歴だ。
でも、前作「俳風三麗花」にくらべて、ずっとよくなった。N賞受賞も遠くない。期待している。ついでに、この作品の連作も期待する。まだまだ物語は続けられるはず。せっかく生み出したキャラクターはしっぽまで食べることにしましょう。トロゲンさんだって、どうやってヒモと切れることが出来たのか、知りたいじゃないか。
頑張れ、後輩。
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