川のある町で
広島に来た。中国新聞のNさんに原爆報道のあれこれについて話を聞きたいと思って昨日新聞社を訪ねた。本川のほとりにある新聞社は夜遅くまで灯りがついている。整理部の記者たちが退社するのは深夜1時半過ぎだという。わたしの仕事も不規則だったが、ブンヤさんたちの商売はそれ以上だと感心する。
帰りに平和公園のそばを通った。原爆の母子像がライトアップされていて、そのまばゆい姿に感動した。昼間のなかでは味わえない形に胸を締め付けられるものを感じた。
そして今朝のことだ。ビジネスホテルを出てコーヒーショップまで荷物を引っ張って歩いていた。昨夜の酒がまだ残っていてふらふらしていた。角から若い父と二人の子供が出てきた。1年生ぐらいの男の子と年少組らしい女の子が手をつないで、お父さんの後を追っている。兄らしい振る舞いをする男の子は腕白そうな顔をしている。信号の所で女の子の手をしっかりつかんでいる。
その後ろから赤ちゃんを抱いた若い(本当に若い)母親が、二人を追ってきた。父親は振り返らずずんずん先を行く。母は腕の中の赤子を大事そうに抱えながら、二人の子供にも気を配っている。その5人が縦になって横断歩道を渡っていく。
思わず泣きそうになった。
若い母親に「よく頑張っているね」と声をかけたかった。普通ならまだ独身を楽しんでもいいかもしれない年齢で、3人の母を“演じて”いるその母に。
今から考えると、その一家はこれから結婚式かなにかお祝い事に出席する途中だったのかもしれない。男の子は蝶ネクタイをつけていたし、父も母も式服を着ていた。
けっして裕福には見えなかったが、子供たちにきちんとした身なりを与えていることに、私は心が撃たれた。父も頑張っているかもしれないが、その若い母が全身で家族を守っているというエネルギーを感じたのだ。
あ、そうか。その赤ちゃんの「お宮参り」だったのか。赤ちゃんは上等の白い布に大事そうにくるまれていたことを、今思い出した。親子5人で神社へ出かけていくところだったのだろう。
今朝のその光景を思い浮かべると瞼が熱くなってくる。なぜ、こんなことに涙もろくなっているのか自分でもよく分からない。
そのあと、広島駅まで電車で行った。太田川の支流を渡った。秋の日を吸い込んだ川面は銀色に輝いていた。懐かしい町、広島。
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