月の出がこんなに美しいとは
映像メディア論のゲストに、今年はQプロデューサーに来てもらった。
彼は本学の社会学科の出身で、OBでもある。在学中は演劇に夢中でほとんど授業には出なかったそうだ。それでも5年間(1年は浪人時代)過ごした京都は彼の青春の地で、20年ぶりにキャンパスに入ったと感激していた。サークル活動に明け暮れたQさんにとってキャンパスよりも周辺の喫茶店や食堂のほうが懐かしかったらしい。授業を終えたあと、ひとりで見て回りにあまりの様変わりにショックを受けつつも往時を思い出して、バックツースクールを堪能したようだ。
彼が講演で披歴してくれたドキュメンタリー論は感動的であった。番組作りの原点に赴任地熊本での体験があったのだ。
そこで「水俣」という大きな主題に遭遇した彼は、その巨大な「壁」に幾度も立ち向かうが、なかなかこの複雑にして不可解な出来事の本質に切り込むことは難しかった。そんなとき、番組を通して知った熊本大学の原田正純先生から言われた言葉がQさんの内奥に響いた。「見たものの責任」という言葉であった。
その経緯を実に淡々と語るなかで、ある瞬間声が裏返った。驚いて顔を見ると、少年のように紅潮したQさんが声をつまらせていた。原田先生のエピソードを語っているうちに胸に迫るものがあって言葉を失ったのだ。番組を作るということは、人と人との関係性を構築することだということを改めて思い出した。Qさんは自分の体験を通して学生たちに、表現することの喜びやそれにともなう苦労を率直に語った。久しぶりに番組を愛する仲間の姿を見つけて嬉しかった。
夜、鴨川の「床」で主任教授のS先生、Qさんと三人で打ち上げを行った。四条大橋より下った五条に近い鴨川のほとりで喧噪も少ない場所だ。学生時代のエピソードをあれこれ思い出したQさん。すっかりセンチメンタルジャーニィのモードに入っていた。
隣に座っていたS先生が「あっ」と小さな声で叫んで東山のほうを指さした。
見ると、山入端に月がすぽんと飛び出たところであった。それはそれは美しい満月である。見とれた。ものの10分もしないうちに、月は高くのぼって、地上を煌々と照らす。東山の峰が影絵となる。京都でしか見られない光景だ。鴨川の流れも穏やか。あとで調べると月齢は15、まさに満月。月の宴と洒落こんで、話は深夜まで続いた。
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