蹴上あたり
三条京阪から坂をのぼって蹴上まで行くと、ミヤコホテルがある。日野草城の連作で知られる名門ホテル。昔、大津まで帰るときに電車のなかから見えて、立派なホテルだと感心したことがある。幼稚園の頃だったろうか。なぜ子供心にそんな通俗なことに関心がいったのかさだかではないが、京と滋賀の国境にある孤高の建物とでも思ったのだろうか。
京大生だった日野草城が新婚の夜というなまめかしい題材を、このミヤコホテルという舞台を借りてフィクション句としたこと。昭和9年のことだと知ると草城の勇気に敬意をもつ。2.26まであと2年の時代に、よく作り発表したものだ。
けふよりの妻と来て泊(は)つる宵の春
夜半の春なほ処女なる妻と居りぬ
枕辺の春の灯は妻が消しぬ
蹴上の坂を上がりきると、空には高い夏雲が流れていた。
昔は逢坂越えの路面を京阪電車がえっちらおっちら走っていたが、今は地下鉄道になって少しさびしい。南禅寺に抜ける道をぶらぶら歩いていると、傍らに昔のインクラインの廃線があった。鉄道と枕木が並ぶ緑の憩いの場といったふぜい。魅かれてその空間に侵入する。この真夏日に人などいないと思ったら、意外なぐらい大勢の人がいた。
特におばさんたちのグループが多い。みな線路に座り込んで楽しげに話しこんでいる。
私も茶店で買ったアサヒ本生のプルトップを開ける。木陰をやさしい風が通り抜けていく。眼下には京都の街並み。汗をぬぐいながらビールで喉をごくごく鳴らす。
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