青葉冷え
お世話になった方面に挨拶を一通り終えて受賞騒ぎも一段落した。昨夜はテング酒場でいつもの升酒とイカ刺しで一杯ひっかけて帰った。久しぶりに映画でも見ようと思って、メル・ギブソンの「リーサルウェポン」を見始めたが眠くてたまらない。10時過ぎには寝た。
6時過ぎに目が覚めた。ある人から送ってもらった木村東介の『女坂界隈』『不忍界隈』を読み始めた。上野で民族美術商を営んだという木村の言動は度外れで痛快そのもの。民族というのは右側のという意味らしい。
ジョン・レノンに白隠の達磨の図を売ったという話が面白い。暮れの押し迫ったときに、ジョンはヨーコといっしょに木村の店を訪れた。店でなく自宅に架かっていた白隠が気にいってその場で買った。言い値の200万。それだけでない。曽我簫白に仙涯もだ。最後に積んである箱にジョンは目をつけた。「コレは何だ」と聞くから、芭蕉の短冊だと応えた。広げて軸を掛けると、ジョンの目が変わった。200万という値段にいとめをつけず即購入。帰りのタクシーのなかでもジョンはその短冊を大事に抱えて去ったという。ちなみに、短冊の句は「古池や」だ。
ジョンが店に来たときから木村は売る気がなかった。心ある日本人のコレクターに秘蔵してもらいたいと集めた品ばかりだから、外人(木村の表現)には売りたくないと民族派らしい魂胆があった。だが、ジョンのひたむきな心にうたれて、次々に秘蔵の品を売ったのだ。
世の中には不思議な人たちが、まだまだいるものだ。
この木村は久保田万太郎びいきらしい。彼の句をいくつも紹介しているが、なかで初めて目にするのがあった。
ひとづてにうわさきくだけ花曇り
きくだけ、という措辞にまいった。さすが傘雨。
木村東介という画商の美意識は独特の鋭さ。日本の5大芸術として、1に円空、2に二天、3に写楽、4に詠士、5に利行。5はなんとなく見当がついたが、2と4はまったく知らない。なおも本文を読み進めると、二天とは宮本武蔵のことのようだ。たしかに武蔵は絵を描いたが、それほど高い評価とは思いがけなかった。詠士とは宮島大八のこと。その書を木村は高く評価している。どんな書だろうか。ちょっと見たくなった。
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