どこに行くのか
60代というのがこれほど死の谷を歩む期間になるのかということを、あらためて思い知る。日々実感している。
さしあたって致命的なことが起きているわけではないが、処々肉体の不具合が発見されることが続いている。消化器系が衰弱し、泌尿器系が停滞し、血管系が綻びはじめるなどと、わが肉体に潜んでいた悪童どもが一斉蜂起したといわんばかりの賑やかさ。連鎖するかのごとき蠢きに身体は悲鳴を上げ始めている。これまでの不摂生のせいであろうか。
しかも、50代と違って病は正面から襲ってこない。後ろから追い越してきて突然ふりかかってくる。病気慣れしていない当方としては、まるで赤子の手をひねられるように屈服させられ、戦慄する。
ゴーギャンの言葉だったと思うが、「人はどこから来て、どこへ行くのか」というが、今の私の関心はどこへ行くのかしかない。はたして、人はどこへ行くのであろうか。
今、ミケランジェロの番組を制作していることもあって、彼の生き方否いかに死んでいったかに目が向いてしまう。
天才たちというのはグループで“転生”するらしく、彼と同時代に生きた人物にダ・ヴィンチやラファエロがいる。秀吉が信長や家康たちと同時代であったように、北斎と広重が互いにライバル視したように。
ミケランジェロ(以下マイケルとする)が生きた時代はルネサンスの盛期であったというと、いかにも安寧で華やかに思われるが、社会自体は抗争と不正に満ちていた。生命の危険はたえず隣り合わせであった。マイケルも数回暗殺の対象にもなっている。
マイケル、ダ・ヴィンチ、ラファエロのなかでも特に危険に満ちた場にあったのはマイケルのはずだ。だが、彼らの行年を比較すると興味深い事実が浮かび上がってくる。
マイケル89歳、ダ・ヴィンチ67歳、ラファエロ37歳。もっとも安全な暮らしを送っていたラファエロはわずか37歳で死んでいるに対して、マイケルは89と長命を生きている。だが、当人にとって長寿は必ずしも嬉しいことばかりではなかったようだ。その日その日を呪詛するかのようにして、生きながらえねばならなかった晩年。
今の私から見れば、マイケルの苦難に満ちた後半生は痛々しいかぎりで、ラファエロのような人生を与えられたほうがよほど気楽であっただろうにと同情する。
今気がついたのだが、北斎は90まで生きて広重は62で死んでいる。ミケランジェロという人は北斎のようなキャラクターだったのかもしれない。派手で激情的で扇情的で・・・。
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