思い乱れて
しっかり考えが結べない。ある思いが現れても根っこをもたずすぐ浮遊する。浮かんでは消え、かと思うとまた現われる。朝の瞑想にしても20分間がなかなか我慢できない。なぜか焦燥感がある。
こんなときに限って暗い本と出会う。太宰の『人間失格』と南木佳士の『トラや』である。太宰のほうは読み切ったが、自伝的ではあるがフィクションとして脚色があることをトレースできるので、それほど苦痛ではなかった。
南木の作品は難物だった。2007年に出版されて旧作ではあるが、私は渋谷のブックファーストで購入した。あるブログにこの本の推薦文があって、気になって手にしたのだ。
南木は1989年に第100回芥川賞を『ダイヤモンドダスト』で受賞している。現役の医者である。私はディレクターとして1989年に「芥川賞・直木賞100回」という番組を作ったから、南木のことはよく知っていた。長野で勤務医を続ける穏やかそうな人物という印象だった。その後も派手な活動はなく、本業が忙しいのだろうぐらいにしか思っていなかった。
ところが手にした『トラや』はとんでもない作品だった。うつ病に苦しむ作者と思しき人物の15年の漂流が淡々と描かれていた。死と直面している出来事を「淡々と」というのは怖い。まるで、自分も同じ心境に立つかのように、心が動いて行く。
刃物に目が向く。家人が留守のときに台所の出刃包丁に主人公の目が向いて行く。ふっと、飼い猫が食事をねだることに気がつく。《猫たちの餌もやらずに自害するほど切迫しているわけではないしな、》と数秒間の余裕が生まれて辛うじて命拾いをするのである。
筆者は医者だけに、症状の見つめ方もリアルで微細だ。
実は怖くてこの読書は半分までで中断した。
夏の朝の太陽は今年の不順のせいだろう、ぼんやりと蒸し暑さだけを送り込んで来て、重い。今日で7月も終わりだ。
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