暗黒への転落
1949年の映画「暗黒への転落」を今朝見た。ハンフリー・ボガードの主演で、ニコラス・レイの監督作品だ。フィルム・ノワール(暗黒映画)の一つだろう。
不良で美青年のニック・ロマーノ(ジョン・デレク)が警官殺しの容疑で逮捕され裁判を受けることになる。弁護士としてアンドリュー・モートン(ハンフリー・ボガート)が出馬してくる。モートンは、幼い頃からスラムで育ったニックを見て来て、その環境の劣悪がニックを追い込んだと感じている。その弁護を引き受けるのだ。たしかにワルだが、まさか警官までは殺していまいとモートンは信じ懸命の弁護を続けるのだが、最後の局面でニックが真犯人であることを告白する。そして、ニックは処刑場に向かうことになる。その後ろ姿を呆然として見送る弁護士モートン。
さすがニコラス・レイの監督作品だ。事件の破局に至るまでをいくつもの挿話を重ねて、主人公の置かれた苦しい状況をじっくりとあぶり出して行く。今から60年ほど前の作品とは思えないほどテンポがある。
pretty boyが美青年と訳しているがちょっとニュアンスが違う気がした。この映画には原作があってウィラード・モトレイのベストセラーが下敷きになっているのだが、脚本は「ピクニック」のダニエル・タラダッシュと、ジョン・モンクス・ジュニアが共同で執筆している。鮮やかな筆さばきだ。劇中、気のきいた言葉がいくつも出て来る。「13世紀以来、世界に奇跡は起こっていない」とか「太く短く生きて、きれいな死体を残す」なんてセリフだ。ボガードあたりがしゃべると様になる。原作の言葉かシナリオの言葉か判別できないがとにかく洒落ている。
フィルム・ノワールの特徴にファム・ファタール(運命の女)がある。男を迷わせ転落させる女だ。本映画のタイトルに「転落」がついているが、ニックのファム・ファタールは性悪女でなくむしろ純情な娘の一途な愛を主人公自身が裏切っていくという仕掛けになっている。だが、これもある種のファム・ファタールなのかもしれない。トータルでは面白い映画だったが、劇伴がやや古くさく感じた。
昨夜、寝しなに読んだ北条民雄の「いのちの初夜」に比べると、ずいぶんあまいセリフかもしれないが、「太く短く生きて、きれいな死体を残す」が気に入った。
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