土曜の朝から
自分の体温で暖まった布団のなかで、うつらうつらしているところへ、「夢のなかのデート」が流れてきた。60年代の懐かしいコニー・フランシスの曲だ。一瞬、どこに私はいるのかと目くるめく。
小川洋子『物語の役割』(ちくまプリマー新書)を読んで感銘した。作家の秘密としての、物語の作り方を小川は告白している。短く、やさしい表現の新書だから、ぜひ読まれることを薦める。
彼女の大事な主題であるホロコーストと金光教のことが、実にディーセントに忍ばせてあることに感動する。
そこで紹介されていた彼女の作品「リンデンバウム通りの双子」。
主人公の私は日本の作家で、別れた妻と子どもがいる。その子どもがロンドンに留学しているのだが、現地の学校でトラブルに巻き込まれる。男は学校に呼び出され、急遽ロンドンに行くことになる。その私の小説をドイツ語に翻訳してくれているハインツがウィーンに住んでいて、私と文通している。ヨーロッパに行くついでに、そのハインツと会おうということになり、私はウィーンに赴く。リンデンバウム通りのアパートを訪れる。と、思いがけないことにハインツは年老いた老人でしかも双子であった、やはり年老いた兄カールと二人だけで古いアパートの5階に暮らしていた・・・・・。
荒筋だけでも面白そうだ。俄然読みたい気分となり、昼から、この本を大磯図書館へ探しに行こうと思う。でも、私が書きたいことは、この本のことではない。双子の老人と出会った場面のことだ。主人公がそのことを知ったときの、呆気にとられた表情を想像し、そのことにわくわくしているのだ。
1959年2月、50年前のちょうど今頃小学館の二人の編集者はトキワ荘を訪れた。ここに住む漫画家に、春に創刊される少年週刊誌に連載漫画を依頼するためだ。豊田編集長から命を受けて、このアパートに住む藤子不二雄という新進気鋭の漫画家を口説いて来ることになったのだ。なんでも、同じアパートに住む寺田ヒロオと編集長は仲良しで、その寺田がもっとも有望な若手だと藤子不二雄を推薦したそうだ。
木造アパートの2階に上がり、ドアをノックして、部屋に入ると二人の若者がいた。
「?」編集者は顔を見合わせた。
「あのう、どちらが藤子さんでしょうか」
「ぼくらです。ぼくらは二人合わせて、藤子不二雄です。」ベレー帽をかぶった線の細い若者と黒縁眼鏡の前髪を垂らした若者が口を揃えて言った。
なーんて、光景があったのではないかと、今サンデー・マガジン物語を制作している私は夢想してしまったのだ。
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